○×△太郎の修業時代

6月もいよいよ終盤。明日までは雨の予報だが、7月に入るともう傘マークは見当たらない。よもやこのまま梅雨が明けてしまうようなことはないと思いたいが…。
▼7月に新規の現場の着工を控え、ぼちぼち忙しくなってきた。今週末は担当事業所の工事で土日ともハードな上、先週も半ドンとはいえ日曜出勤しているので、今日は代休にするつもりだったのに代休どころか残業になっちまった。途中雨に降られて洗濯物を取り込みにうちに戻ったのがロスだった。自分の中で秘かに今期の目標にしていた隔週の土休分まで代休をとるどころか、日曜出勤分も怪しくなってきた。
▼上の子は毎日「今日で落ち着く」と言いながらの22時帰宅が終わらない。合宿前はお昼をうちで食べていたのが、今は妻がいないこともあってうちにも戻らず、それどころか昼も夜も食べずに帰ってくることが多い。まあ僕も移動中の信号待ちに弁当かきこむくらい予定が詰まることはよくあるので、一概にブラックと言えないこともわかる。この業界(建設業の専門業者)の番頭(営業職)では特にめずらしいことではない。
▼彼のノルマは売上年間1億らしい。粗利は2割くらいだろうか。これもそんなにメチャクチャな数字でもない。監督でも番頭でもまずは出来高1億ないと話にならない。なぜなら給料が年収500万なら、社会保険などの福利厚生と社用車やケータイなどの経費で会社の負担は倍の一千万になるからだ。これだけやってやっと自分にかかるお金と同じだけ会社に収めたことになる。
▼売上1億、あるいは粗利2千万。売上と利益のどちらがノルマになるかは会社の方針によるが、この辺が会社が人を雇って意味のあるギリギリのラインだろう。8割の売掛リスクと1割の人件費を払って1割残らなければ最初から何もやらない方がいい。およそ利益を追求する普通の会社に所属する社会人にとって、共通のスタートラインだ。
▼年に1億ということは月に800万、週に200万である。彼は内装業なので、仮に個人宅の壁紙と床材を貼って家一軒20万の工期が1週間なら、常時10現場動いていなければならない。この中に店舗など大口が混ざって実際は6、7件掛け持ちしている状態。これが今現在施工中の現場。同時にこれから先の分の営業に見積、工事が終わった後のクレーム処理をこなすのだから忙しいに決まってる。毎日残業だし土日もなくなるだろう。僕もかつてはそうだったし、今も繁忙期はそうだ。
▼彼の会社は売上がノルマだが、僕の会社は利益重視なので、社会人スタートの粗利2千万がお金を扱う社員のノルマ。その他の社員は現業(重機オペや世話役)である。社長に言わせれば年齢×100万残さなければ仕事してるうちに入らない。単年度ならマグレもあるから、その数字を3年続けて初めて管理職、さらにその倍を3年続ければ役員だという。
▼こういう話をきいて、「無理に決まってる」とか「それをブラックというんだ」とか「公務員になろう」と思う人もいるかもしれない。しかしこれが虚業や公共事業ではない、いわゆる実体経済の在り様なのだと思う。地方の健全な会社は基本的にこんな風に単純な考え方をしているし、地方でマジメに働いている人たちは基本的にそうやって生計を立てているはずだ。
▼ノルマだからといって必ず達成できるわけではない。またできなくてもいい。上の子も数年は無理だろう。少しずつ着実にステップアップしていくというものでもない。今期僕はノルマがいきなり5倍になった。もちろん一人でできることではない。しかし誰が誰の下につけとか、彼は営業で彼は現場だとかも会社は決めてはくれない。全てはその人の器量次第なのだ。セクショナリズムに陥ることなく全てに責任を持ち、同時に任せるべきところは任せ、さらに人が動いてくれなければ大きな数字は残せない。
▼なぜこんなことを書くかというと、明日はわが社の決算日であり、ボーナス支給日だからだ。妻なんかもうひと月くらい前からこのことしか頭にない。帰省前には目が¥になっていた。まあ僕も似たようなものだが、やはり自分の一年間の成績表のようなものだけにいろいろと去来するものはあるのだ。子供より早くうちに帰り、ノルマも同じで結果も大差ないなら、それはもう旅にでも出るしかないね。
▼タイトルは文豪ゲーテの代表作「ウィルヘルム・マイスターの修業時代」のもじり。学生時代私淑していた哲ちゃん(哲学者)の下宿に遊びにいくと、ある日忽然と百科事典のような大部の「修業時代」と「遍歴時代」が本棚二段分くらいを占領していた。「どうしても読みたくなりましてね。ええ」…ほどなく同棲中の、彼の学費のためにバイトを数件掛け持ちしていた彼女が出ていったのは言うまでもない。やっぱ掛け持ちはよくないな。次回は「遍歴時代」だっ!