泥沼

秋分の日は雨模様の涼しい一日となった。もちろん休みではない。お彼岸を前に台風16号が列島を縦断(横断)し、秋の条件が整ったように見えたが、来週はまた残暑がぶり返すらしい。30度を超す予報もある。その前に雨がやまない。いったいいつまで続くんだろう。
▼長雨に祟られて9月工期の現場が延び延びになっている。なにしろ雨でぬかるんで整地ができない。現場はぐちゃぐちゃの泥沼状態である。客先に余裕を見て申告した工期をいっぱいに使う最悪のパターンだ。工事が終わっていないのにスタッフが散り散りになる前に先に打ち上げを済ませたことは書いた。
▼さて長雨と僕の手持ち工事と同じく先の見えない都の豊洲新市場移転問題。前回のエントリーで見たように、新市場は建物を建てる立場で考えると非常に効率よく作られている。工事はあらかじめ土をさらった状態から始められ、難しい建物の内側は埋めずに簡単な外側だけ埋めた。通常のGLから始めた場合に発生する掘削と埋め戻しの二つも工程を省くことができ、かなりのコスト削減効果があったはずだ。
▼ところで用語の問題だが、普通土壌汚染対策で土を盛る行為は「覆土」と言い「盛り土」とは言わない。読んで字のごとく汚染された部分を覆う役割である。「盛り土」は「覆土」に比べればずっとポピュラーな言葉だ。建設工事で土を入れればみな「盛り土」となる。豊洲地下空洞問題では当初から「盛り土」が使われ「覆土」という言葉はきかない。土壌汚染対策なのになぜ?そこに違和感を覚えた。
▼もう少し見ていこう。元の地盤から2mの土を全て入れ換え、さらに2.5m土を盛る荒川水位プラス4.5mを現状地盤に設定した根拠は何か。土壌汚染対策の前提とされる「盛り土」は専門家会議の提言と思っている人も多いかもしれないが、この数字は元々都側から専門家会議にトスされたものらしい。
▼そしてこれは降雨時に上昇する地下水位の上限値でもある。工事前、この土地は雨が降ると沼地になっていた。つまり土壌汚染対策如何にかかわらず、ここまでの盛り土は必須なのである。地下水監視システムもしかり。汚染物質のモニタリング以前に、ポンプアップして地下水位を管理しないと商品が水没する恐れがある。
▼要するにここで行われていることの全ては、徹頭徹尾建設工事上の要請に基づいたものである。土壌汚染対策如何にかかわらず、建物を建てるにあたって当然必要な措置ばかりだ。表向きの理由はどうあれ、実際の施工に携わる関係者の念頭に土壌汚染対策は一切ない。そしてそれは最初から、設計段階からそうだったことは前回見た通りだ。
▼ところがおかしなことに、盛り土を初め本来建設工事の範疇に属する工種のかなりの部分が土壌汚染対策工事として契約されている。豊洲盛り土問題の本質は、元々は建設工事範囲の項目(しかも相当手間が省かれている)に、土壌汚染対策の名目で莫大な追い銭が支払われているところにある。だから安全が担保されれば問題ないということにはならない。
▼この件は食の安全の問題というより、単に土壌汚染対策関連で500億が858億に、建設プロパーで当初予算の900億が2700億の三倍に膨れあがったという事実の問題である。狭い豊洲のひとつの事業を建物ごとにわざわざ三つの工区に分け、それぞれの入札に大手ゼネコン一社ずつしか参加せず、落札率が全て99.9%だったことの問題である。事前に情報が洩れ、談合が行われていたことは明白だ。
▼安全は、ここでは単に工事の前には「安全のために念には念を入れて盛り土を」とゼネコンが金を引っ張ってくるダシに使われ、工事が終われば「安全性に問題がないなら盛り土がなくてもいいじゃないか」という口実にされるアリバイにすぎない。公金はこれまでもこのように引き出され、この際限のない横領が東京五輪でさらに大規模な形で行われようとしている。この流れに異を唱えるものは誰であれ消される。イノセもマスゾエも節約を言うものは例外なく失脚する。
▼先日の会合で社長に「自分でミスしておいてそのお詫びと称して接待するなんてマッチポンプもいいとこだ」と怒られたが、僕のやってることなんて豊洲の盛り土に比べればかわいいものだ。過剰な安全対策で値を釣り上げて、実際には必要ないとやらないなんてこれ以上のマッチポンプもないだろう。例によってゼネコンはだんまりを決め込んでいるが、意図して誰かが絵を描かない限り当初予定の3倍もの金を引っ張ってこれるもんじゃない。



合宿中はどうしても似たような食事になってしまう。そのうち脳の血管が詰まるな。


忙しい最中にも気分転換は必要だ。