経験の変容

月曜から水曜まで二泊三日で東京に遊びに行ってきたので久しぶりにブログをアップします。この間の写真は逐次インスタグラムにあげてきたが、やはり写真だけでは言い足りないこともあるので。
▼小雨降る月曜の午後、互いに午前中仕事を済ませてきた僕と妻は東京に向かう新幹線に乗り込んだ。春の訪問以来半年ぶりの上京だ。昼食は東京でのグルメの負担にならない程度に軽くサンドイッチをつまむ。


今回のメインイベントはリッカルド・ムーティ指揮ウイーン国立歌劇場来日公演「フィガロの結婚」全四幕である。火曜のマチネだが、当日泊まるだけでなく前乗りして万全を期すことにした。
▼15時ちょうどに到着してそのままホテルにチェックイン。今回のお宿は品川駅近くのグランドプリンスホテル新高輪


もう少し足を伸ばせば、地図の上では高輪、白金台と続き、数年前に宿泊したシェラトン都ホテルあたりまで徒歩圏内のはずだが、周囲を高いビルに囲まれて東京タワーすら影も形も見えない。
▼部屋に荷物を置いてさっそく行動開始。トーマス・ルフ展を見たかったのだが、あいにく前日の日曜までで会期終了。最終日の一時間前まで長蛇の列ができる盛況ぶりを伝え聞くにつけ、見逃した後悔が大きくなってゆく。仕方がないので代わりに芸大美術館に展示されているロバート・フランクを見に行く。
上野駅の公園口を出て、東京文化会館、西洋美術館を左手に見ながら国立科学博物館を左に折れると、ほどなく噴水広場が見えてくる。瞬く間に26年前の初夏の記憶が甦る。夥しい数の鳩が一斉に飛び立ち、僕の視界から彼女を連れ去っていった。僕が知っている上野はここまで。地図上ではこの先に芸大があり、さらに今はやりの谷根千へと繋がっているが、僕は歩いたことがない。それは存在しないのと同じことだ。
▼芸大が近づくにつれ変わった人が目につく。極端に痩せた人、太った人。思い切りメロンパンを頬張りながら歩く女性。展示会場のスタッフはまた普通に戻った。

ロバート・フランクといえば「アメリカンズ」。折しも米国で暴言王トランプが泡沫候補から一気に大統領まで上り詰めたばかりだ。トランプ現象とは何なのか。米国人のメンタリティーを知る一助になればと思ったのだ。
▼会場は写真撮影OK。トーマス・ルフ展もそうだったらしい。おそらくそれは写真という展示内容や作家の意向というより、時代の要請だと思う。今後は美術展といえどもそうでないと成り立たないのではないか。飲食だってWi−Fiが飛んでないと商売にならないはずだ。今は誰でもいったんスマホに納めた上で署名入りでネットに拡散しないと納得しないだろう。そうしないと何事も経験した気がしないんだな。
▼展示そのものは期待外れ。手ぶれにピンボケ、露光不足に構図もありきたり。端的に言ってヘタクソな写真だ。意図してそうしたというより、それらのことにあまり注意が払われていない感じ。要するにシロートに近い。まあ僕の写真のようなものだ。何もかもが安っぽく見える。パリジャンだかパリだかいう写真集をめくったが、アメリカンズとの差異がわからなかった。


とろがその同じ写真が、一見して写真がウマイとわかるインスタグラマーに紹介されると様になって見えるのだ。なんだか狐につままれた気分だ。今や個人的な体験の成否はスマホ写真の腕次第である。
▼芸大を出て、来た道とは反対に進み、上野公園を一周して上野駅に戻る。日脚が早く、既に真っ暗だ。芸大と並んで上野高校がある。こんな環境で青春期を送った人と、地方出の田舎者では世界の見え方が全く違うだろう。夕食はインスタグラムで紹介されていた神田のとんかつ屋


究極の口コミだと思う。
▼その後早い時間にホテルに戻り、翌朝ヨガマスターの直接指導を受けにいく妻を残してひとりマスターの店に。オープンから32年。続いてるだけで奇跡だ。先客の二人組の男の子は店にいる間中スマホを見ていた。彼らが帰って次のカップルが来るまで一時間ほど二人きりで話した。「誰知ってる?」「○×さんとか」「ああ、彼は…」当時の常連の消息はあまり芳しいものではない。「バブルだったからね」いいながら僕も内心忸怩たる思いがない訳ではないが、こうして顔を出せるだけでも幸せなのかもしれない。
長くなりそうなのでつづきは次回!